【EPMに通じるプロジェクト・マネジメントの本。】
今日は、大手SI会社にとってのプロジェクト・マネジメントをどう位置づけるのかという視点で書いています。
概要
本書を読んで感じたことは、大規模システムを請け負うSI会社に必要なプロジェクト・マネジメントの成熟レベルは、レベル4またはレベル5ではないかと感じた。というのは、事業ラインのほとんどが、実質的にプロジェクトを主体とする単位により構成されており、かつ、SIerとしての地位が比較的高く、高度なSIとしてのプロジェクトマネジメントを顧客から、今後、要求されてくると思われるからである。
本書で示されているトピックを中心に考察していく。
キャリア計画と組織構成
SIerにおけるプロジェクト・マネジャーに要求されるスキルは、多くの種類がある。ただ、重要だと感じるとのは、次の4つと私は考える。
・コミュニケーション・スキル
・プロジェクト・マネジメント・スキル
・業務スキル(システム構築対象業務)
・ITスキル
現状の組織は、名目上事業部制組織ではあるが、非常に、機能組織の色合いが濃い組織となっている。事業部制は、対象顧客毎に組織を作り、この中で、各機能組織である営業、システム、管理部門等を配置していく。現行の組織は、大きく、営業とシステムという機能組織で構成し、その中で、それぞれの対象顧客組織を編成している。これは、多くのメーカー系のSI会社の組織で見られる組織構成である。
この様な構成であるため、「業務スキル」や「ITスキル」は、組織として関心が払われているが、「プロジェクト・マネジメント・スキル」については、どうしても、キャリアとしての位置づけが軽くなるように思える。これが、大型プロジェクトに失敗が多い原因だと考える。ただ、比較的、小さなプロジェクトでは、その「業務スキル」や「ITスキル」が、一定以上のレベルであれば、大きな失敗にならないので、まず、そこに力を入れるのは理解できる。
今後、どのスキルで利益を出していくかを考えると、どうしても、「プロジェクト・マネジメント・スキル」が中心にならざるを得ないと考える。そのスキルで利益を生み出す必要がある。というのは、「業務スキル」や「ITスキル」は、比較的中小のSI会社でも、追従することが可能であるからである。
大型プロジェクトだけを扱う組織が必要になっていると思われる。この組織には、大型のプロジェクト・マネジメントを専門とするプロジェクト・マネジャーを配置する。それと、プロジェクト・マネジメント専用スタッフを配置する。それ以外は、対象業種のシステム部門から、人員を集めるようにする。こうすることにより、プロジェクト・マネジメントの経験やスキルを蓄積する組織ができ、知識が継承すると考える。
これは、結果的に、PMOと同等な役割を持つ組織になる。
余談ではあるが、アメリカの組織構成について、簡単に触れる。アメリカの大手の組織は、本来の意味での対象顧客毎の事業部(日本で言うところの社内カンパニー制に近い)や、マトリックス組織であるのが一般的である。本書は、これを前提として、書かれている事に注意してほしい。
ポートフォリオ管理
本書で、示されているようなプロジェクト毎のポートフォリオ管理が、SI事業を中心にすえる会社としては、不可欠だと考える。というのは、SI業はいうまでもないが受注が中心であるため、長期的な計画を立案しても、その計画を能動的に管理できないため、受注前に、その受注がもつ意味合いを考えて、全社的にバランスを考慮して、選別する必要があると考える。
そのためには、まず、前述のPMOが管理するプロジェクトを手始めに、経験や知識を蓄積して、全社的に普及させるのがよい。というのは、対象とすべきプロジェクトが集中しており、かつ、大型プロジェクトであるため、比較的リソースに余裕があり、専門スタッフを保持しているためである。
まとめ
プロジェクト・マネジメントを主体とする組織を立ち上げて、そこを中心に、プロジェクト・マネジメントの経験と知識を蓄積する組織を立ち上げることは、プロジェクト・マネジメントのスキルで利益を上げることを期待されている大手の会社に必須である。その組織を梃子に、先進的な試みや戦略のモデル・ケースを立ち上げることが望ましいと考える。
プロジェクトマネジメント成熟度モデル-レベル1からレベル5までの評価基準
著者:ハロルド・ケルツナー、出版社:生産性出版
後悔度:★(三つ星満点)
★★★:読まないと絶対後悔する、★★:とても後悔する、★:やっぱり後悔する