日本資本主義の精神 by 山本 七平

●江戸時代を知ることが、現代を知ることになる
江戸時代は、日本の歴史の中で、最も興味深い
時代である。「日本人の自前の秩序」を確立した
時代であり、それが三百年近く継続した時代で
あるからである。
明治のように西欧を模倣し、戦後のように
アメリカを模倣した「マネ時代」でもなければ、
古代の日本のように、中国がお手本であった
時代でもなかった。
「マネ時代」ではないという意味では、
最も独創的な時代であった。当時の思想家は
本当に考えねばならなかった。また政治家は、
模索をしつつ、新しい秩序を確立しなければ
ならなかった。
日本人は明治における発展であれ、
戦後の経済的成長であれ、「なぜそうなったのか」を
把握しておらず、外部に説明できない状態である。
「なんだかわからないが、こうなってしまった」
のである。これが発展につながっている時は良いが、
同時に破滅をもたらす場合もある。太平洋戦争は
まさにそれであり、同じ失敗は許されない。
本書は日本人一人一人が明確に自己、日本人の
本質を把握して、自らをコントロールするための
一提案であり、視点の提供である。
本書の中で印象的だった3人の人物について
ご紹介します。
(1)鈴木正三
彼は戦国末期から四代将軍家綱までの混乱の時代から
秩序確立の時代までの過渡期に武士、出家して禅宗の
僧侶として生きた。
正三の時代は武士の成長期から停滞期への転換期
であった。太平の世は「戦国武士」の存在理由を
否定し、「足軽から太閤へ」の夢もなくなった時代
であった。
そんな中で正三は人々がいかに生きるべきかの
具体的指針を打ち立てた。
正三は生活の業を立派な行為と考え、心がけ次第で
労働をそのまま仏行となし得る「諸行即仏行なり」
と考えた。その考えが『四民日用』である。
(農民)
農作物を作り、自分の食べる以上に世に返すことは
万民の命を助けることだ。他念なく農業をすれば
田畑は清浄の地となり、五穀も清浄の食となり、
食べる人の煩悩を消滅させる薬となる。
(職人)※工
鍛冶職人や、諸々の職人がいなければ
人々が必要とするものが揃わない。
(商人)
売買の作業は国中の「不自由でない状態」を
流通によって支えている。一切の流通が止まれば、
人はあらゆる面で拘束をうける。一筋に正直の道を
学ぶべし。
現在なら、石油の流通がとまり、食糧の流通が
とまったら、日本人の全員が動くに動けない状態となり、
「自由」を論ずる自由さえ失ってしまうであろう。
以上のように、「世俗の業務は、宗教的修行であり、
それを一心不乱に行えば成仏できる」と正三は説いた。
日本人は仕事を”経済的行為”ではなく、一切を
”禅的な修行”でやっている。「世のため人のため」
と、こうした考え方を末端にまで浸透させたら、
その企業が世界一の優良企業になっても、不思議ではない。
この発想は、16世紀から現代まで続く、日本人の
基本的な発想だからである。
(2)石田梅岩
梅岩の時代、享保時代は戦国時代後の復興景気が終わり、
全員の年功序列的昇進と、定年後の子会社行きにも似た
のれん分けを保証するだけの経済成長は、もはや望めない
時代であった。
彼は、武士が主君に忠ではなく、禄をもらっていれば、
それは武士とはいえないように、商人も「売り先」への
誠実がなければ商人とはいえない、という。
いわば「消費者への誠実」が第一であり、
経費を三割節約して、利益を一割減にする
という方法をとれと言っている。
結果としての利益は良いが、倹約に努めること、
どん欲になると、道を外れ、必ず倒産するとした。
(3)上杉鷹山
上杉謙信のときは三百万石と佐渡の金山を持つ
最高、最大の大名だったが、景勝の時に会津
百二十万石となり、関ヶ原で石田方についたために
米沢三十万石となり、さらに跡取りがいなくなる
危機の中で十五万石に削られた。
石高が20分の1になったにも関わらず、
武士団は現在の従業員と同じように規模の
縮小に応じて解雇するわけにはいかない。
となれば、藩の経営自体が成り立たなくて
当然である。藩政が破滅の危機の時に大名に
なったのが上杉鷹山である。
1.倹約という支出の大削減
2.自己を含めた減俸と余剰人員の整理
3.追加税の徴収
4.武士の生産的労働力への転化
あたり前のことを実行にうつしたことで
藩政の再建をなし遂げた。
これだけのことができれば、破産国家でも
破産企業でも立ち直って当然であろう。
世の中でもっともむずかしいのは、実体を
正しく見て、それに対応するあたりまえのことを
実行に移すことなのである。
●「あたりまえ」の実行を阻害する
 「民主主義」という権威
鷹山が実行したことは、「あたりまえ」のことである。
だが、この「あたりまえ」のことを実行するには、
「明君」が必要であった。
梅岩が言ったことも「あたりまえ」であろう。
しかし、倹約を実行に移させれば、多くの抵抗があり、
その抵抗は、常にその時代の「権威」とされる言葉に
よって行われた。
いわば「聖人の教え」であり「武士の道」であり、
戦後ならば「民主主義」であろう。
そして、それを克服しえた人は、常に、日本の伝統、
すなわち、その社会構造とそれに対応している各人の
精神構造を正確に把握して、それに即して実施していく
という方法論を身につけていた。
すなわち、それが日本資本主義の倫理である。
レビューでは十分にこの”日本資本主義の倫理”は
伝えきれませんが、本書は日本の社会構造と日本人の
精神構造を正確に把握する上での大きなヒントが
得られる本です。この把握に基づく自己管理、経営管理が
できれば混沌の時代を生き抜く大きな柱となると思います。
※本書は文語の引用が多く使われており、
 また完全に現代語で意味を解説されて
 いないため、難解な部分があります。
◆『日本資本主義の精神』
著者:山本 七平
出版社:ビジネス社
後悔度:★★★★
★★★★★:読まないと、絶対、後悔する
★★★★ :読まないと、とても後悔する
★★★  :読まないと、やっぱり後悔する
★★   :読まないと、後悔する気がする
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■編集後記
◆モレスキン-伝説のノートで遊ぶ
伝説のノート(モレスキン)をもらいました。
というか、写真にも写っている本『モレスキン「伝説のノート」活用術』
の献本に、おまけについていたんです。
ダイヤモンド社さま、ありがとうございます。
さて、『モレスキン「伝説のノート」活用術』では、日常の記録、確か、
ライフ・ログ、としての活用方法がメインに書かれています。
そのなかで、ToDo管理の方法としての
活用が描かれており、今、それを実践しています。
iPhone4を持っているので、それでやれば、良さそうなのですが、
iPhoneアプリで、しっくりくるのが無いのです。
それと、あまりに、あの小さな画面で、なんでも、やっていると、
目に悪いなというものありまして、この手帳にしています。
さて、どれだけ、続くやら。
ちなみに、ToDo管理手法としては、GTDを取り入れたやり方になっており、
これも楽しいですね。
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