もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら by 岩崎夏海

●物語でマネジメントが学べる傑作
以前、『プロフェッショナルの原点』をドラッカーの入門書にと
おすすめしたことがありましたが、さらに入門書にふさわしい
本を発見しました。これが本書です。
急遽野球部のマネージャーを引き受けることになった
みなみが、ドラッカーのマネジメントを学び、野球部で
実践することによって甲子園出場を目指すサクセスストーリーです。
ストーリーも大変よくできていて面白く、夢中になって
あっという間に読み終わりました。
ドラッカーの本は初めての人には難解で、読むのに大変時間が
かかると感じる方が多いと思いますがこの本は違います。
これまでドラッカーの本に挑戦してしっくりこなかった人、
これからドラッカーのマネジメントを学ぼうと思っている方に
おすすめの一冊です。
(1)野球部の目的・使命とは何か?
『企業の目的と使命を定義するとき、出発点は一つしかない。
 顧客である。顧客によって事業は定義される。』
野球部にとっての顧客とは誰か?野球部にお金を出してくれる存在、
協力してくれる存在は誰か?
部員、先生、学校そのもの、親、学校にお金を出す東京都、
東京都に税金を払う東京都民らが顧客だ。
高校野球ファンも顧客だ。高校野球ファンがいるから
スポンサーが出資してくれて、甲子園が運営される。
みなみは野球部の顧客はこれらであることに気付き、そこから
『顧客に感動を与えること』が野球部の定義であると考えた。
そして、目標は「甲子園に行く」ことだった。
「そうよ!『感動』!よ!顧客が野球部に求めていたものは
 『感動』だったのよ!それは、親も、先生も、学校も、
 都も、高野連も、全国のファンも、そして私たち部員も、
 みんなそう!みんな、野球部に『感動』を求めてるの!」
(2)人の強みを生かす
『人のマネジメントとは、人の強みを発揮させることである。
 人は弱い。悲しいほどに弱い。問題を起こす。手続きや
 雑事を必要とする。人とは、費用であり、脅威である。
 しかし人は、これらのことのゆえに雇われるのではない。
 人が雇われるのは、強みのゆえであり能力のゆえである。
 組織の目的は、人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを
 中和することにある。』
『人は最大の資産である』
一年生マネージャーの北条文乃はみなみにとって扱い
にくく、面倒くさい存在であった。はっきり言って苦手だった。
初めは負担でさえあり、できれば関わり合いたくなかった。
ところが、『マネジメント』を読んでいくうちに、その
考えは変わっていった。
まず、彼女の強みに目が行くようになった。彼女のよい点
ばかり探すようになった。当然だ。なぜなら、彼女の強みを
生かさなければ、マネジメントの成功はありえないからだ!
そうした中で、頭のよさや向学心、強情さの裏にある素直さ
といった強みが見つかった。そこで今度は、どうやったら
それを生かせるか、どうやったら組織の生産に結びつけられるか
考えた。みなみは監督の野球に関する膨大な知識を吸収し、
通訳として部員に伝えるアウトプット先として文乃を生かそうとした。
また、これは「みんなの役に立ちたい」という文乃の欲求を
満たすことでもあって、北条文乃という人間を生かすことにも
つながった。
(3)イノベーション
『企業が存在しうるのは、成長する経済のみである。
 あるいは少なくとも、変化を当然とする経済に
 おいてのみである。そして企業こそ、この成長と
 変化のための機関である。したがって企業の第二の
 機能は、イノベーションすなわち新しい満足を生み出す
 ことである。経済的な財とサービスを供給するだけでなく、
 よりよく、より経済的な財とサービスを供給しなければ
 ならない。企業そのものは、より大きくなる必要はないが、
 常によりよくならなければならない。』
『イノベーションとは、科学や技術そのものではなく
 価値である。組織のなかではなく、組織の外にもたらす
 変化である。イノベーションの尺度は、外の世界への
 影響である。』
イノベーションは、組織の外、つまり野球部ではなく、
野球部を取り巻く「高校野球界」にもたらす変化だった。
古い常識を打ち壊し、新しい野球を創造することによって、
高校野球界の常識を変えていくということだった。
高校野球の何を古いと考え、何を死につつあるものと思い、
何を陳腐化したと見るか、相談すると文乃は「『送りバント』
と『ボール球を打たせる投球術』ではないか」と答えた。
●真摯さ
『人を管理する能力、議長役や面接の能力を学ぶことはできる。
 管理体制、昇進制度、報酬制度を通じて人材開発に有効な
 方策を講ずることもできる。だがそれだけでは十分ではない。
 根本的な資質が必要である。真摯さである。
 最近は、愛想よくすること、人を助けること、人づきあいを
 よくすることが、マネジャーの資質として重視されている。
 そのようなことで十分なはずがない。
 事実、うまくいっている組織には、必ず一人は、手をとって
 助けもせず、人づきあいもよくないボスがいる。この種の
 ボスは、とっつきにくく気難しく、わがままなくせに、
 しばしば誰よりも多くの人を育てる。好かれている者よりも
 尊敬を集める。一流の仕事を要求し、自らにも要求する。
 基準を高く定め、それを守ることを期待する。何が正しいか
 だけを考え、誰が正しいかを考えない。真摯さよりも知的な
 能力を評価したりはしない。
 このような資質を欠く者は、いかに愛想がよく、助けになり、
 人づきあいがよかろうと、またいかに有能であって聡明であろうと
 危険である。そのような者はマネジャーとしても、紳士としても失格である。』
冒頭でみなみなドラッカーのマネジメントの中にある”真摯さ”
という言葉に電撃に打たれたようなショックを覚えた。
私自身もドラッカーに出会ってから”真摯さ”とはどういう
ことかを追求しております。
物語なので、このようなレビューではいまいちよくわからないと
思います。興味を持たれた方はぜひ読んでみてください。
組織運営で大切なことを学べると思います。
◆『もし高校野球の女子マネージャーが
  ドラッカーの『マネジメント』を読んだら』
著者:岩崎 夏海
出版社:ダイヤモンド社
後悔度:★★★★★
★★★★★:読まないと、絶対、後悔する
★★★★ :読まないと、とても後悔する
★★★  :読まないと、やっぱり後悔する
★★   :読まないと、後悔する気がする
★    :読まないと、後悔するかな?
◆詳細&購入

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら 岩崎 夏海

おすすめ平均
stars★【もしドラ】★!。
starsドラッカーオリジナルを読むべし
stars真摯さの意味
stars原著を知る方には物足りないがドラッカー超入門として新しい門戸を開いている
starsイノベーションとマーケティングの成功例

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ゲスト書評家として、岩橋 亮さんをお招きしました。
岩橋 亮さんの自己紹介:
『行動なくて読書の価値なし』をテーマに中小企業経営に役立つ
実践的なビジネス書・自己紹介書を紹介している書評ブロガー
中小企業経営に役立つビジネス書・自己啓発書レビュー
ゲスト書評家を希望の方はこちらをご覧ください。


■編集後記
◆リサーチ
最近、新しいことをしようと思っています。
参入に当たり、リサーチを繰り返す日々です。
リサーチ自体は楽しい部分もありますが、
やはり、何らかのリアクションのあることが楽しいですね。

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